「住職日記」(2005年1〜6月分) | ||||||||||||||||||||||
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前々回の「日記」(1月19日付)で私は、
という中学生に対する小澤竹俊氏の「励ましの言葉」を紹介しましたが、この言葉は裏を返すと、
という「教訓」、「戒め」として理解することもできるようです。
(こういった場合、壊れていくのは当事者間の関係だけでなく、往々にして、周辺の人たち同士の関係もまた損なわれていきます。 ただ、前々回私が、
と書いたように、「人の意見など聞く必要もない、自分の意見が通 りさえれば良い」という「根性」は、この私の中にも間違いなくあります。 周囲がどんな目で自分を見ているかも知らないで、「やっぱり私が出ていかなくては……」とひとり悦に入っている
「裸の王様」。
自分が普段身近な人たちの話をどれだけ真剣に聴いているか。 正直、全く自信はありません。m(_ _)m (1月24日) |
昔話、もしくはザンゲ話 (……って、またですか?) 前回の「日記」(1月19日付)で「あらゆる学びは模倣(真似)から始まる」と書いた時、今から20年ほど前の出来事を思い出しました。 私の大学時代に「教行信証講読」という授業がありました。 今年度はA教授が『教行信証』(きょうぎょうしんしょう/親鸞聖人の主著・ライフワーク)の「教巻(きょうのまき)」を担当。B助教授は「行巻 (ぎょうのまき)」の担当。C講師は「信巻(しんのまき)」……といった具合に何名かの先生方が担当され、 学生は自分の時間割やらアルバイトやらの都合に合わせてその内の1つを選択するといった具合だったのですが、その中に大変にユニークと言うべきか、「超」厳しいと言うべきか、とにかく他の先生方とは一風変わった授業方式をとっておられる先生が いらっしゃいました。 他の先生方は「講読」とは言っても、先生自らがその「巻」の主題や内容について話される「講義」が中心だったのですが、その先生の授業は文字通り「読む」、ひたすら学生に『教行信証』の本文を音読させる、というものでした。 毎時間出席を取り、学生1人1人に原文―漢文に訓点(くんてん・返り点や送り仮名)を付したもの (下部画像参照) を読ませ、年数回、読み進んだ箇所のすべての原文とその書き下し文(総ルビつき)を書き写させてレポートとして提出させるというその授業は、授業の度ごとに出席者数が減少してい き、最終的には学生の大半が落伍していくというハードなものでした。 最後まで乗り切った学生はそれこそ大したものだったのですが、ちなみに私も2回ほどチャレンジ(受講登録)し
て結果、評点K(途中棄権)。 しかし、当時は「学生イジメ」(失礼!)としか思えなかったこの授業、今にして思えば実は大変重要な、意味のある授業だったのですね。 昔は学問といえば「韋編三絶※1・読書百遍意自ずから通ず」とばかり
、とにかくまず「素読※2」
することから始まっていたのですから、その先生は「変わっていた」わけではなくて、むしろ「伝統的な」手法を堅持しておられたわけです。 日ごとに積もる『真宗聖典』のホコリを横目に、「もっとまじめに勉強しとくんだった」と後悔する昨今。 (1月21日) |
【『教行信証』原文(真蹟坂東本)】 |
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「きく(聴・聞)」の効用 満2歳を迎えた末娘は目下日本語習得の真っ最中。
たどたどしい口調ながら、「いつの間にこんな言い回しを覚えたのか」と周囲を驚かせ(笑わせ)ることもしばしばですが、よく見ると、私や連れ合いの発した言葉(主に単語)をしきりに復唱しているのです。 ある字書によれば「まねぶ(真似ぶ)」という古語があり、それが「まなぶ(学ぶ)」の語源 、もしくは同源(同じ語を起源としてもつ語)であると紹介されていました。
そう言えば、子供の頃習っていた書道もまず「臨書(先生の手本を書き写すこと)」から始まりましたし、あらゆる武術の鍛錬は「型」から入るそうです。 ただ、模倣するためには対象をしっかり観察しなければならない。目を凝らし、耳を澄まさなければなりません。 相手の声に耳を傾けるためには、準備としてまず「自分の口を閉じる」必要がありますが、実は、私たちにとってそれが一番困難なことではないかと思うのです。 私たちは声高に自分の意見を述べること、言い換えれば自分を主張することのみに精一杯で、人の声に耳を傾けることができない生き物、もっと言えば人の話を聞くことなど大嫌いな生き物 になっているのかも知れません。
真宗は聞法、仏法聴聞ということを大切にしてきました。 小澤竹俊医師(横浜甦生病院ホスピス病棟勤務)は、「苦しんでいる人の前で私たちにできることは?」という問いに対して、
と答えられました。 また、ある講演会では、中学生の発した「(自分と周りの人との)すべての関係性が絶たれてしまったら?」という質問に対して、
と答えられたそうです。(『日本海新聞』2004年12月22日付「人(ひと)」欄参照) (1月19日)
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謹 賀 新 年
旧年中の御厚誼に深謝し、本年も宜しく御指導の程お願い申し上げます。 (2005年1月1日) |
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